火星の月の下で

日記がわり。

幻想文学

岩波文庫版『マクロプロスの処方箋』

岩波文庫からチャペックの初期の戯曲『マクロプロスの処方箋』が出ていたのを書店で見つけて購入。 なんでも昨年の夏に出ていたようだ。 この劇はかなり早い段階で邦訳され、戦前の近代劇全集にも既に訳されていた。 もっともこのあたりはドイツ語からの重訳…

ヴェデキント『春の目覚め』

ヴェデキント『春の目覚め』の舞台録画がいくつかweb上に上がっていたので、何本かを見た。 モティーフが社会や大人との断絶によってつぶされていくミドルティーンの少年少女たち、というものだけあって、いろいろと現代風にアレンジされてて、それなりに面…

Karl Grosseについて

ナウベルトに続き、18世紀末「ドイツ恐怖小説の十年間」を彩ったあと二人の人気作家、ファイト・ヴェーバーと、カール・グローセ。 このうちグローセもGutenbergに一作だけだがアップされているので、メモがてら。 ・Der Genius. Aus den Papieren des Marqu…

Benedikte Naubertについて、メモ

GutenbergにNaubertの作品が3本上がってるので、そのメモだけ残しておこう。 twitterで少しだけ書いたんだけど、まったく反応がなかったので、個人的メモだな、したがってリンクも貼らない。1.Alme oder Ägyptische Märchen 2.Conrad und Siegfried von F…

美酒か霊液か

ホフマンのWinkler版『悪魔の霊液』を引っ張り出してきて、拾い読みしてるのだが、何度読んでも面白いね。 ホフマンの散文作品はだいたい以下の4つに分類される。 ・二つの長編小説:『悪魔の霊液』『牡猫ムルの人生観』 ・三つの中編小説:『ちびのツァッヘ…

ロータース『E.T.A.ホフマンの世界』

ロータース『E.T.A.ホフマンの世界』読了。 今まで数多く読んできた内外のホフマン論、ホフマン伝記とはいくぶん違った切り口で、けっこう面白かった。 ドイツの文芸評論によくある、同時代の社会性、今日から見た社会意識との差、みたいなことにさほどこだ…

G・ハウプトマンの童話劇3部曲

岩波文庫からヴェデキント『春のめざめ』が新訳で出ていたようなので買って帰ったんだが・・・。ちょっとひどいね、これ。口語をふんだんに取り入れていて、そこが売りにもなってるみたいなんだけど・・・。本作を児童劇と見るか表現主義の劇と見るかでだいぶ違っ…

韻文学の立場から

幻想小説と幻想文学と言う言葉は時に同義語のように聞こえることがあるが、大まかな枠としては間違っていないだろう。もちろん例外は出せるが、大きな潮流としては現代ではかなりかぶさる点が多い。だが多くの創作が歌謡、韻詩の中から生まれてきたとの同じ…

ペルッツ『第三の魔弾』が白水社から

気付くのにかなり遅れてしまったが、かつて世界幻想文学大系で故・前川道介先生の翻訳で出ていた『第三の魔弾』(レオ・ペルッツ)が、白水社から安価になって復活しているようだ。一瞬前川先生以外の誰かの新訳なのだろうか、と思ったが、前川先生の訳業が…

1975年のできごと

昭和50年、1975年というと、ヲタ的には年末の第一回コミケだが、当時はまだ東京のローカルイベント。作画グループをはじめ、大手はほとんど参加していなかった。しかし幻文マニアにとってはこの年、けっこう重要な事件が起こる。そう、国書の「世界幻想文学…

怪奇小説日和(ちくま文庫)を購入

Amazonで「おすすめ」されていたので、購入しようかどうしようか少し迷っていたら近くの書店に新刊として入っていたので、Amazonで買うより書店で買う方がよろしかろうと思い購入。内容は後書きにもあるが以前出た『怪奇小説の世紀』からの抜粋と新訳をいく…

バンベルクのホフマン

バンベルクのホフマン。その放浪の人生の中で、最も美しく充実し、一番夢が現実に近づいたホフマンのバンベルク時代。その時代を9分弱でまとめたフィルムで、バンベルク市の文化庁が制作したものらしい。なんかいいね、ホフマン愛好家としては、実に嬉しく…

シュネデール『フランス幻想文学史』

昨日書いたように、シュネデールの大部の本を枕元において拾い読みをするここ数日。大昔通読した頃には、通史や言葉の定義について、それほど頓着してなかったけど、取り上げられている作品がだいたいわかってきた今となっては、通史やことばの定義の方が面…

シュネデールの『フランス幻想文学史』

枕頭書を『シラーの幽霊劇』から、スタインメッツ『幻想文学』(文庫クセジュ)と、シュネデール『フランス幻想文学史』に切り替えて、拾い読み。大昔読んだときには、ことばの定義とか、通史的側面にはあまり頓着せず、むしろ作品評として読んでいた。特に…

フロイント編『幻想物語』

・G.マイリンク『しなびた脳』 ・A.M.フライ『疑惑』 ・K.A.ホフマン=ダッハウ『隣室』 ・H.H.エーヴェルス『カディスのカーニバル』 ・W.ザイデル『ウィオランテの帰還』 ・I.アイヒンガー『私の棲む処』 ・カシューニッツ『船物語』 ・B.フリッシュムート…

コミケ78、終了(笑)

初日に出て、帰宅。私のコミケは終わった。(笑)ヲタ関連は大半が3日目主力っぽいけど、もう別にいいや。(^_^; 一応出品したもの。・幻想と狂気第壱号〜ホフマンその一。・幻想と狂気〜創刊準備号。(これは前に急ごしらえで作ったもの) 次はアルニムをやる…

アルニム(二)メリュック・マリア・ブランヴィル

今泉文子編『ドイツ幻想小説傑作集』の簡単な感想を残しておく。といっても、購入して読んでからだいぶ経つんだけど。(^_^;収録作品は以下の5作。・金髪のエックベルト(ティーク)・アーダルベルトの寓話(シャミッソー)・アラビアの女予言者 メリュック…

美しき人狼としての『イグナーツ・デンナー』

今泉文子編纂の「ドイツ幻想小説傑作選」をパラパラ読んでいると、その解説のところで、「美しき人狼が徘徊する」『イグナーツ・デンナー』という記述があって、なるほどなぁ、と思ってしまった。『イグナーツ・デンナー』は、当初の初稿であった盗賊物語と…

E.Th.A.ホフマンの作品分類

文章同人の方で、ホフマンについて俯瞰的にまとめようと思ってるので、そのだいたいのアウトライン。 小説。(Roman、Novelle、Erzährung、Märchenを含む、散文作品)・カロー風の幻想曲集。・夜想曲集。・ゼラピオン同人集。・最後の物語集。3つの中篇小説…

『ドイツ幻想文学の系譜』を読む

けっこう前の本なんだが、ヴィンフリート・フロイント著『ドイツ幻想文学の系譜』を読む。ドイツの文学評論の典型的な匂いが充満してて、ちょっといやだったり面白かったり。(^_^;総論、およびジャンル的分析に関しては、まさにドイツ流で、執拗に個と社会、…

ホフマンの『女吸血鬼』

昨日書いたとおり、原初の姿の吸血鬼が昨今忘れられつつあるようなので、ホフマンの『女吸血鬼*1』に見られる、原初の死啖鬼の姿、およびその転換点を回顧しておく。 父の遺産を相続したヒッポリト伯の居城に、亡き父が嫌悪していた老男爵夫人が訪ねてくる。…

近代幻想文学の立脚点

このタグで最近書いてこなかったので、そろそろ記載を再開していこうと思う。個別には、たまっているウィーン夢幻劇あたりから書いていきたいと考えているけど、一応自分なりの定義というか方針を少しふりかえっておきたいと思う。 ・近代幻想文学一応「幻想…

創元文庫・怪奇小説傑作集の頃

1970年代というと、あまりに生々しく感覚が残っているので、どうも時代評価はしかねるというか、できない感覚になっているんだがそれでもさすがにこの年齢になってくると、客観的な評価は依然としてできないが、主観的にはいろいろと「ああ、そういう時代だ…

ライムントの妖精劇(二)

ウィーン演劇メモその2 ・フェルディナント・ライムント(1790-1836)概説は既に(一)で書いたので、そのオリジナル脚本。(・・・オリジナルといってもタネ本はあるのだが) ・『魔法島の晴雨計職人』(1823)邦題名『晴雨計職人 魔法の島へ行く』歌と踊…

総体的なレヴュー、もしくは入門的な文について

RinRin王国さんとこのリンクから。SF初心者これだけは読んどけ!と、じゃあちょっと真面目にSFでも読んでみましょうかという気持ちになった富士見さん。SFはときどきこういうのがあるからいいね。じゃあわれらが幻文は、というと、ファンタジーとしてはよ…

長靴をはいた牡猫

原書では若い頃に「ロマンティッシェ・イロニー」の代表ということで読んではいたけど、訳本で読んだことはなかったのと、どういうわけか古本屋で買ってきた岩波版が読まずに本棚に残ってたので、入院の機会に他の劇作品なんかとともに持っていったもの。父…

アルニム(一)

(一)とはしたけど、続きを書く構想があってしたわけではなく、好きな作家のことなので、これで記述を終らせるのではなく、また気がむいたら書けたらいいなぁ、という想いをこめた(一)である。さて、アヒム・フォン・アルニムである。ホフマンの次に好き…

ライムントの妖精劇(一)

正嫡のドイツ語文学史、あるいは独墺文学史では、19世紀前半のウィーン演劇は、巨人グリルパルツァーが現れ、その後浪漫主義からリアリズムへの橋渡しをするネストロイが大きく取り扱われ、われらが妖精演劇のフェルディナント・ライムントは、ネストロイの…

幻想演劇・序

まだ考えがまとまってないのだけど、まとまるまで待っていたら永久に書き残せない気がしたので、頭の中ではまだイメージが雑多に散らばったままだけど、とりあえず今後の私の指針となることを期待して、ここに書き散らしておく。 近代演劇において、幻想演劇…

妖精小説翻訳の今

現在の学校教育の外国語履修事情を反映してか、英米語からの妖精小説の翻訳はそこそこあるのだけれど、英米語圏以外の翻訳が、なかなか手にとりにくい状況にあるように思う。断っておきたいが、まず英米語以外の妖精小説、妖精文学の翻訳点数が決して少ない…