火星の月の下で

日記がわり。

リキュールを読む+もとやま礼子氏のことなど

ブラコンアンソロジー Liqueur ―リキュール― (フレックスコミックス)を買ってきて読む。
「シスコン」ではなく「ブラコン」というのがみそで、つまりよくある兄(弟)視点の「妹(姉)萌え」ではなく、妹(姉)視点からの兄(弟)萌え作品集であるわけだ。
一応看板作品は、表紙+巻頭にもなっているカトウハルアキ*1の『夕日ロマンス』出張版みたいな作品で、確かにこれも良かったんだが、なんといっても山田J太氏*2の『てのひら』と、百合原明氏の『世界で1番残酷な恋』の2作が気に入った。
『てのひら』は、本集の中では比較的物語性の強い作品で、14ページの中に巧妙に仕掛けというかプロットが収まっていて、お話を読んだ、という読後感にさせてくれる。
幼い頃、病で失明してしまった少女、その手を取って人生を導いているかのような優しい兄、その手をすがり「くらやみ」の中で安堵する幼い妹。
そして手術の時がやってきて、そこで知る悲しい結末。
盲目の少女の話、そして手術によって明らかになる事実、というと、ジイドの『田園交響楽』なんかを思い出すが、こちらも徹頭徹尾和風の雰囲気の中で、優しい感覚が詩情をたたえてくれる。
『世界で1番残酷な恋』の方は16ページ。こちらもラストの一コマが胸に迫る佳作で、それを書いてしまうとネタバレで、かなり鑑賞効果が下がりかねないので書かないけど、切なさあふれる好篇になっている。
総じて本集では明るい作品が多く、妹(姉)視点のブラコンとは言え、兄(弟)の方も、妹(姉)が好きで、もしくは気になって仕方なくて、という作風のものが多いのだが、この『世界で1番〜』は、兄が妹に萌えていない、ほとんど唯一の作品。
決して嫌っている、という状況ではないが、普通に「妹」の枠内で、それこそ普通の家族として接している、という作品。そこに芽ばえる妹の恋心、というのが実に切なくリリカルに描かれている。
なんとなく昭和50年代くらいの月刊少女漫画を読んでいるような感覚になる。
画風はイマ風だし、モティーフも現代風にうまくこなれてはいるんだけど。
この2作がとびきり自分の好みにあってたので、アンソロとしてはまあ購入して正解だったかな、といったところ。
総じて明るい系作品が多くて、暗めの作品というのはこの2作と、あとなんか場違いなガロ漫画みたいなのくらいなので、明るい系の作品だと、
・『ふたり』(小阪康之氏)
・『ずっと一緒のあなたと私』(草野紅壱*3 )
・『夕日ロマンス』(カトウハルアキ氏)
・・・てあたりが、好みだった。
兄妹もの漫画として思い出すのが、もとやま礼子氏の『鮫神さまの海』という作品で、これは昭和40年代だったと思ったが、兄妹で禁断の恋を生み、妊娠してしまう、というお話。
もとやま礼子氏というと、『白い影』でCOMの第2回ぐらこん新人賞を取った人で、第1回が、あの伝説の岡田史子氏。
ぐらこんに投稿していた頃においては、竹宮、萩尾、なんて人達よりもはるかに高水準の作品を残していた人だったのだが、この『鮫神さまの海』を描いた後あたりから、学園コメディに軸足を移していき、商業作品の大半はそういったコメディ作品、ということになって、あまり漫画カルトの連中の口には上らなくなってしまったけど、セリフのない全編サイレント『白い影』と、地方情緒あふれる島を舞台にした『鮫神さまの海』の2作は、氏のたぐいまれなる語り手のセンスを示してくれる作品だった。
簡単にググッてみたけど、コミックスにはなってないのね、残念。

*1:ヒャッコ』の人。

*2:あさっての方向。』の人。

*3:お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!』の人。ただしこれは妹モノではなく、姉もの。