火星の月の下で

日記がわり。

換骨奪胎・ロミオとジュリエット

ゴンゾの『ロミオ×ジュリエット』第1話を見た。
見たんだけど・・・『巌窟王』の時以上に換骨奪胎が激しいので、けっこう頭をかかえちゃうね。(笑)
SF設定にして作り直す、って聞いてたので、たぶん一番変わるのはロミオの設定だろうなぁ、と思ってた。
原作はあまりに有名なので今更筋を追うこともなかろうけど、ジュリエットが初恋だったのに対して、ロミオは初恋ではなく、すでに恋の経験もあり、たぶん童貞は卒業していたと思しき描写まである。もちろんはっきりとした言明ではないけど。
たぶんこのロミオ像は書き換えられるだろうなぁ、っていうのはあった。
ところが見てみると、モンタギュー、キャピュレット両家の立場まで変えていて、ちょっとそれはどうか、と思ってしまった次第。
アニメでは、舞台となる空中大陸ネオ・ヴェローナの先の支配をキャピュレット家が担っていて、それをクーデターかなにかでモンタギュー家が打倒して支配権を握り、ジュリエット達は身分を隠してモンタギュー大公支配化のこの大陸で、劇団員のようなことをしつつ隠れて暮らしている、っていう筋書き。つまり、両家の立場は対等ではないのである。
従って、2人が出会うキャピュレット家の舞踏会を、モンタギュー家の舞踏会に変えてしまい、原作ではロミオがこっそり忍び込んでトラブルを起こすのに、ジュリエットが忍び込んで出会うことになる。
まぁ、出会いのシーン自体は、別にどっちのパーティであっても構わないんだけど、両家が対等ではなく、力関係においてロミオ側が優位に立っている、っていう図式にはちょっとひっかかるものを感じるなぁ。
2人の、憎み合う家同士の禁断の恋が、なんかあだ討ち物語の恋、みたいになっていきそうなのである。
しかも、優位に立っているモンタギュー側を、支配階層にしてしまっているから、この悲恋をまとめる、さらに大きな力、原作では総督にあたる人物が、仮にでてきて両家和解への道を示すとき、不安定になるんじゃないかなぁ、とかなり心配になってくる。
悲恋、っていう状況だけを利用しようとしているのなら、ちょっとそれは残念かな。
以下、第1話を見終わって感じた原作との差異について、少し列挙してみる。
1.モンタギュー家とキャピュレット家。
上に書いた通り。
シェークスピア以前に、このイタリアの都市を舞台にした心中事件に材を求めた劇はいくつかあったけど、「敵対しあう両家の子供達が勝手に心中してしまい、残された親達の悲劇」という見方が強かった。
それに対してシェイクスピアが偉大だったのは、親たちではなく、その当事者の悲劇としてとらえた点にあって、この観点によりこの芝居が普及の名作になったわけで、そのことを思うと、あだ討ち物語みたいな図式にしてしまうと、個人の悲劇が薄まってしまうような気がするのだ。
2.ジュリエットの年齢。
原作では14歳の誕生日を目前に控えたことになっているので、13歳。まぁアバウトで14歳。
アニメでは16歳の誕生日前、従って15歳。
この年齢問題に関しては、たぶん「一夜をともにする場面」を入れるつもりかもしれないので、それに対する予防措置、っていう見方もできるけど、2歳繰り上げたことで「初恋」の初々しさが薄まってしまうのではないか、という懸念は少しある。
つまり、16歳まで恋を知らなかった、っていうのは・・・ちょっと苦しいんじゃないかなぁ、と思う次第。
床をともにすることによって生じるかもしれない法律的なものをクリアするために、ならば、むしろそっちを削ってでも、幼くも初々しい情熱を優先するべきじゃなかったかなぁ、という気持ちはけっこうある。
もちろんそうしたらそうしたで、肉体が結ばれてもいないのに、死まで決意するかどうか、っていう問題も生じてくるんだけどね、毒薬の事故として処理するやり方もあるけど。
3.ロミオの恋愛経験。
これについてはまぁ、いいかな。
原作ではロザラインという令嬢に片思いのところからロミオは登場するし、仲間内との軽口や下卑た冗談なんかの中に、既に女は体験していると思しき言い回しも散見されるわけだが、現在のアニメ視聴者の環境とは、ややはずれてくるかもしれないし、それに日本では男性にも童貞ゆえの純粋さ、みたいな感覚もあるから、これはアニメ版のような、繊細でウブな青年、みたいなキャラ付けも仕方ないかなぁ、とは思うところだ。
4.モンタギュー家が大公家として描写されていること。
これも上に書いた通り。現時点ではそれほどの問題には見えないけど、総督の存在をぼかしてしまいそうなので、仮に原作通り毒薬の悲恋で終結するのなら、どう閉めるのか、少し面倒になりそうな気がする。
巌窟王』の最後みたいに、ロミオとジュリエットがロボットに乗り込んで戦う、とかいうラストにはならないと思うけど、天馬にまたがって一騎打ち、くらいはしそうで少し不安だな。(笑)
キャラ設定見てると、ベンボーリオの父として、ネオ・ヴェローナ市長ヴィットーリオ、というのが設定されているみたいなので、これがしめくくりそうでもあるが・・・。
とまぁ、第1話を見た段階で気になったのはこれくらい。
感想等は、アニメブログの方に書くつもりで、そっちではあんまり批判的なことは書きたくないので軽く書くけど、こっちでは現時点で気になった点を書き残しておく。
しかし公式設定見ると、原作では3番目に重要なキャピュレット側の急進派・ティボルトが「敵か味方か謎の剣士」なんて書かれてるし、もう原作は換骨奪胎どころじゃないかもしれんなぁ。(笑)