火星の月の下で

日記がわり。

◎『響け!ユーフォニアム 第二楽章・後編』を読む

発売日が昨日の5日だったのだが、所用があって書店に行けず本日6日購入。
で、書店に行ってびっくりした。ものすごく売れてんのね。
通常の宝島文庫の棚にこの後編だけなかったので「発売延期?」と一瞬不安になったのだが、新刊が積まれている方に行くと2冊だけ残ってて一安心。
新刊の積まれたスペース、その空いた場所を見てると4〜5冊あったのが2冊になって、という状況ではなく、そうとう用意されていたのが2日で2冊になってしまった、ということらしく、それとなく店員に聞いてみると「飛ぶように売れている」らしい。
たまたまこの書店だけだったのかも知れないが、あやうく買いもらすところだった。その場合は通販なんだが、さらに日が遅れるしね。
で、以下、感想。少しネタばれ入るかもしれないけど、本編の肝とも言うべき大会の結果とその後については触れない。
ま、半ばくらいで結末はかなり予想できる仕組みにはなってんだけどね。
一読後、発売前にアナウンスされていた「希美とみぞれの物語」については、もうなんの不満もございません。
みぞれが覚醒して、部員があまりのすごさに呆然とするあたり、鳥肌たった。
しかし同時に、秀一君の話、新山先生の話、後輩・小日向夢の話、どれをとっても良い個性描写で、やっぱりこの原作者さん、独立した個性を描くのがほんとうまい、と感心させられる。
読んでいて過去の名作『クララ白書』とかキャラクターの成長が時間の流れの中で描かれていた『マリみて』シリーズとかも少し連想したけど、部活を柱にしたスポ根的要素が骨格になっていることもあって、そういった先行する名作とはまったく違う、独特の味わいになっていることも確か。
その最大のポイントはこの個性描写にあると思う。
たとえば前編で描かれていた奏の、外見の人当たりの良さと内面の黒さ、しかもそれが一つ年上の久美子の目からは「隠しているつもりなのにところどころこぼれてくる、本人は感情をコントロールできているつもり」と映り、その視点と実際の行動がきれいに一致している点など。
今回のこの後編では頑なにトランペットパートのファーストを拒み続ける夢の「自信のなさ」と「図太さ」が久美子の目にどう見えているか、という視点も通して、幼さと単純さが活写されている。
そしてさらにこの前後編2冊を通して感じられる久美子の成長。
これは部活を柱にしているので、上達する、ということとリンクしやすいってこともあるのだろうけど、成長であると同時に心の揺れとしても読み取れる。
その辺も含めて人物の描写がすばらしい、と感じるところ。
本筋の「希美とみぞれの物語」
これもみぞれの成長、希美の心の中にあった暗い一面、そういった面でとらえられるのだけど、部活の中でそれがどう反映するのか、という点が明確であるため、すごくわかりやすく描写されている。
あまりにわかりやすいので作者の技法を見落としてしまいがちになるけど、そうとうなうまさだと思う。
そしてあのみぞれ覚醒の場面。
本編中一番強烈な印象を残してくれたところだったけど、これが決してクライマックスではない、という構成もなかなかに心にくい。
音楽の場面を言葉で説明するのはかなり難しい、というかセンスのいるところだと思うのだが、経験者の利点ってのがうまく生きているのだろう。
作者さん、楽器は何だったのかな・・・どこかで書いていたようには思うのだけど。
とにかく、久し振りに面白い文庫小説を読ませてもらった、という感じ。
来春、これの劇場版アニメが既に告知されているので、どういう形になるのか、そのあたりも楽しみでありますな。