火星の月の下で

日記がわり。

ドイツのメイド

ヘッベルの『アンナ』という短編を読んでいて、欧州におけるメイド、女中の扱いのひどさにあらためて想いがいった。*1
150年近く経って、まさか自然主義初期の文人達が、遠く東洋でメイドや若い女中が恋慕の対象になっていたとは思うまい。
英国のメイド小説にもけっこう悲惨なものが多いが、ドイツや北欧の、それこそ社会全体の矛盾がのしかかってくるような、逃げ道のない弱者の絶望感ほどではない。
英国のメイド小説の悲劇は、まだ身分差別だけによる、ととられても仕方のない描写も見るけど、ドイツやスウェーデンのメイド小説なんかでは、単なる階級差以外にも、同性、同階級からの嫉妬、欲望、攻撃なんかもあり、また教養ということが盾になりうる時代、従ってその教養のなさゆえに、本来豊かであった人格が踏みにじられてしまう、という近代が現代になる前の産みの苦しみ、矛盾なんかがいっせいにふきでてくる。
これはメイドに限らず、都市労働者や、下級軍人、農奴なんかでもあてはまるけど、そういった弱者の19世紀的悲劇を、単なる階級差だけで見る危険はおかさないでおきたいと思う。

*1:『アンナ』をメイド小説、と言ってしまうのにはかなり無理があるんだけど。(^_^;