火星の月の下で

日記がわり。

蛇綱考・・・其の一

役行者伝説圏における一言主の姿は、一言主伝説圏の側から言うと、一言主神のほとんど末期の姿で、かつて雄略と渡りあったときの国神の威光は既になく、ほとんど地方妖怪の姿にまで堕しているのだが、その末期の姿に興味ある描写がある。
役行者によって調伏せしめられた一言主は「黒蛇」の姿になって闇に帰るのである。さて、この黒蛇ははたして烏蛇なのだろうか? という疑問がある。
というのも、大和の古伝承に見える「タタラの赤蛇」のモデルを今日的な科学的視点で、「ヂムグリ」と見てしまうことに危険性を感じていたからだ。
もちろん、鍛冶の時の火の粉や、焼けた鉄の描写としての「赤蛇」であろうから、特定のモデルを探そうとしても無理はあるのだけど、それでも、伝説を語った人の脳裏に実在する「赤い蛇」があり、それが連想を呼んだであろうことは想像に難くない。
主体はもちろん鍛冶の火であろうが、表象としての赤い蛇の存在も看過しえないわけである。
そう考えたときに、山里奥深く住み人前に出ることが少なく、毒もない陰性のヂムグリにはたしてその想像を生み出すだけのインバクトがあっただろうか、という思いがある。
私の推測は、この赤蛇は、ヤマカガシではないか、ということだ。大和の水田には今も昔も数多く住み、人目にも触れ、毒もあり、また赤を主としたよく目立つ色彩をもつ。なにより、その名前、カカが蛇の古語であることはよく知られているが、このヤマカガシ、水系によく現れながら「山カガシ」なのである。
初期水田を有する山の金属器集団、その名にふさわしいのではないだろうか。
ちょっと長くなってきたので、続きは次回。