火星の月の下で

日記がわり。

ホリガーとコッホ

ヴァイオリン、チェロといった擦弦楽器はもうほとんどものごころついた頃から大好きで、まだ家にSPレコードがあった頃から、ヴァイオリン音楽(クラシックか否かを問わず)を好きで聞いていた。
もっとも、父の所有だったそのSPレコードは、小学生の頃の引越しで処分してしまわれ、たいそうショックだったけれど。
そんなわけで、ヴァイオリニストとチェリストに対しては、未だに羨望の想いが少しあったりするのだが、子供の頃、その次に好きだったのが木管楽器、わけても最初はオーボエが好きだった。
昭和40年代当時、オーボエ奏者としては人気を二分する演奏家がいた。
超絶技巧のハインツ・ホリガーと、とろけるような音色のローター・コッホだ。知ったのはホリガーの方が先だったが、コッホを知って以来、どっちがいいとは言えなくなってしまい、とにかく両方とも好き、順位なんかつけられない状態が続いていた。いや、別につけなくてもいいんですが。(^_^;
スイス人ホリガーのすさまじい技巧は、後に現代音楽の作曲家にもよく知られることとなり、1本のオーボエで和音を出したりと、ちょっとキワモノっぽい音楽までさせられていた感はあったけど、ちゃんとした古典の協奏曲や、室内楽を演奏するときの、技術、音楽の組み立てのうまさ、オーボエとしてはもうそれ以上望めないのではないか、というすばらしい音色等、曲に演奏に酔わされるものばかりだった。
モーツァルトやベルリーニのオーボエ協奏曲、ヴィヴァルディの協奏曲等、何度感銘を味合わされたことだろう。
一方のローター・コッホ。
知ったのはホリガーより少し後だったが、これはソリストとしてよりも、ベルリンフィルの奏者として活躍していた時期が長かったためだと思う。
レコード芸術だったと思うが、「玲瓏玉を転がすごとき響き」と評されていたのを覚えている。その評の方が先に頭にあったので、ちょっと先入観を持ちつつ聞いてみたのだが、その音色のすばらしさに、激しい衝撃を受けた。
「これはほんとにオーボエなのか?」と思えたほどで、なにか別の楽器じゃなかろうか、と思えるくらい、甘い響きだったのだ。
オーケストラ団員だったことから、ホリガーほどにはたくさんレコードは出してなかったし、出ているのも協奏曲や独奏曲よりも、室内楽がメインだったこともあり、量的にはそれほど聞き込んだ方ではなかったけれど、その尋常ならざる音色に、かなりの間とらわれてしまっていた。
もちろん、ホリガーほどの鬼気迫る迫力はなかったが、技術も超一流の部類だったし、聞いているときは、その時間がまるで至福の時であるかのような感覚さえあった。
アマデウスSQと共演していたモーツァルトオーボエ四重奏曲K370など、CD化されて残っている数少ない演奏だと思うが、聞いていると、往時、音盤に針をおとすときのドキドキした感覚は今でも脳裏に甦ってくる。
最近は十代や二十代の頃のようには頻繁に器楽曲を聞くこともなくなってしまったので、現在のオーボエ奏者にどんな人がいて、どんな人が好みの音を出してくれているのか、とんと疎くなってしまったけれど、ホリガーやコッホの名演を聞いていると、現在のオーボエ奏者の名盤も聞きこんでみたいなぁ、と思う今日この頃である。