昔好きだったヴァイオリニスト
今のヴァイオリニストは、以前書いた現代オーボエ奏者ほど知識が皆無、というわけではないけれど、そんなに聞きこんでいるわけではない。しかし、もうそろそろ老境にさしかかる身としては、若かりし頃、愛聴したヴァイオリニストの名前を残しておくのもよいかな、と思う。
まず、ワルター・バリリ。
ソリストとしてよりも、バリリSQの第1ヴァイオリンとしての技量、音色の方が好きだった。むろんソリストとしてのレコードも愛聴していた。
この人については、その残された演奏の素晴らしさもさることながら、道半ばにして右肘の疾患で現役を引退してしまったことの印象がとても強い。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集は、とても素晴らしかった。ラズモフスキーセットや、晩年の苦渋に満ち満ちた作品等、どれだけ聞き込んだことかわからない。
ベートーヴェンという作曲家はそれほど好きな方でもなかったけど(もちろん嫌いというわけでもなかったが)第9以降の、晩年のピアノソナタや弦楽四重奏などは、かなり好きな方だった。それもこれも、弦楽四重奏に関しては、バリリSQのおかげである。
そしてモーツァルト。
全集は完成しなかった。
初期作品のいくつかと、プロシァ王セットの録音は残してくれたが、弦四史上最高峰に属すると思われる傑作群、ハイドンセットは、第1番(通し番号としては第14番)ト長調を除いて、録音はなされなかったようだ。
いや、ひょっとしたらどこかにお宝的に、ライブとかで残っているかもしれないし、日本にこなかっただけなのかも知れないが、モーツァルト弦楽四重奏全集としては、残されなかった。
これはとても悲しいできごとで、幼年期、もうバリリSQの演奏でニ短調K421や、ハ長調K465を未来永劫聴くことができない、と知ったときは、もう目の前がまっくらになったようだった。
バドゥラ・スコダとのモーツァルト・ヴァイオリン・ソナタや、イェルク・デムスとのブラームス・ピアノ四重奏曲集なども忘れがたいが、やはり、バリリのハイドンセットを聴きたかった、というのが幼年期の叶わぬ夢だった。
ヨセフ・スーク。
弦の国・チェコの至宝。
この人も、ソリストとしてより、スークトリオ等での演奏のほうが耳に残っている。
実は幼年期には、バリリやオイストラフ、ハイフェッツほどには感銘は受けなかったのだが、十代後半くらいになってくると、この人のよさを耳がとらえるようになってきたと思う。今では、バリリの次に好きな演奏家。
室内楽を中心に聞いていたので、どうしても、スークやバリリ、ヴェラーなどの思い出が強いが、ソリストとしては、ダヴィッド・オイストラフ、ヤッシャ・ハイフェッツなどが好きだった。
この両者はCDが数多く復活しているので、今後少しずつ、若いときの思い出を追いかけるように集めていきたいと思っている。
ちょっと毛色は違うが、アルテュール・グリュミオーも心引かれる演奏家だった。
そのあまりに甘い音色は、堅牢なドイツ音楽ではちょっとそぐわないようなこともあったが、ウィーンものやフランスものになると、実に鮮やかな輝きを見せてくれた。
カール・ズスケやレオニード・コーガンなんかも懐かしい名前。
あと、音色というより、音楽の組み立てで深い感銘を与えてくれたアドルフ・ブッシュなども、忘れられない。
ちょっと調べてみると、ブッシュ全集という形でCD復刻しているらしい。
なかなか侮れない価格なので、死ぬまでに購入できるのかどうかわからないけれど、一応目標にしておこう。(笑)
ブッシュで好きだったのは、ブラームスものと、シューベルト。
特に「死と乙女」やブラームス・ピアノ五重奏ヘ短調などは、初めて聞いたとき鳥肌がたったのを今でも覚えている。もちろんLPの復刻盤だったんだけどね。
まだまだいたと思うけど、ここは日記という位置付けなので、また思いついたら記録しておこう。