火星の月の下で

日記がわり。

ウィーン演劇メモ(三) ネストロイ

・ヨーハン・ネポムーク・ネストロイ(1801-1862)
ネストロイについては、多作なので、代表作と目されるものに絞って書く。
ネストロイ劇の特色は、徹底した喜劇、それもかなり毒のある喜劇で、社会風刺、政治批判、人間痛罵、状況喜劇、倒錯喜劇等、みな毒を含んだ笑いのための手段だったということ。
それゆえ、当時の具体的状況に関してはよい資料たりうるし、研究者にとってはいじり甲斐のある作家なんだろうけど、読書家としては今日的な意味で鑑賞してて面白い、とはちょっと言いかねるところもある。
・『悪霊ルンパチガヴァブンドゥス 別名だらしのない3人組』(1833)
一応第1作とされるが、ワタクシの使用しているインゼル版の劇全集では、本作以前に『情け深い牢番』他2編の劇が載っているが、成功作として第1作と考えていい、ということだろうと思う。
妖精劇で、ライムントの妖精芝居のパロディともなっており、ライムント自殺の一因に、このネストロイの嘲罵があった、とも言われている。
妖精世界の事情が人間界に反映して、という流れはライムント妖精劇と近いが、悪霊によって若い妖精が堕落していく冒頭に始まり、消費世界に対する皮肉等、ライムントの魔法的世界とはまったく趣が違う。
・『一階と二階』(1836)
2つの家庭を、家屋の一階と二階を使ってみせる状況喜劇。
2つの家庭の幸・不幸が交互に入れ替わる面白さ。
台本が、一階と二階で区切られていて、そこに物語が展開していく。
しかし本作は、舞台で見ないとその面白さはわかりにくいと思う。3幕。
・『タリスマン』(1840)
赤毛を隠す鬘を手に入れたことから運命が変わってくる男の喜劇。3幕。
・『学校の悪がきども』(1847)
政治的寓意に充ちた劇ではあるんだけど、学校の生徒たちが、しゃちほこばった権威に反抗していく姿は、そこそこ面白い。1幕。
・『クレーヴィンケルの自由』(1848)
退屈の一語なんだが、ルムパチについで、代表作にあげてる人が多いので、一応題名だけ書いておく。
政治喜劇、といえなくもないかな。3幕。
この他『郊外の小娘』とか、『錯乱したヤツ』とか、相当数の作品はあるけど、だいたいこのあたりで全貌がわかると思う。
現実よりの作家なんで、研究者は日本にもそこそこいるようだけど、読書家の立場で言えば、けっこう退屈な作品の方が多い。
とはいえ『ルンパチ』は一読に値するとは思うけどね。