火星の月の下で

日記がわり。

スペイン文学案内(岩波文庫)

以前、各国文学案内と題して、岩波文庫が独、仏、露、希羅古典、についで、各国文学案内を出すならどこになるのだろう、と書いたことがあった。
今年、ようやく半世紀近い年月を経て5番目、国としては4番目の文学案内が出た。
さすがに前の4冊が出てから半世紀近い時が過ぎ、しかも独仏露に関しては増補版までも出来ているだけに、以前と同様のスタイルではなくなってしまっているが、こういった全体を見渡す文学史が文庫サイズで読める、というのはありがたいものだ。
もっとも文庫と行っても価格は1000円を超えるし、著者はまえがきで「総花的な文学史を避ける」とは言っているんだけどね。案内であり入門書である以上、総花的な方が良いんじゃないか、とは少しばかり思ったのだが。
全体は二部構成。
前半がまさに「文学史」で、レコンキスタから書き起こして20世紀末の作家まで取り扱っている。
後半が各時代の代表的作品を取り上げて解説。
スペンイは欧州でも屈指の古い文学伝統を有する国だけど、20世紀以降の傾向、作家についてはよく知らないことも多かったので、教えられることが多かった。
また、けっこう読み親しんでいる作家でも、たとえば『血の婚礼』のロルカや『プラテーロとわたし』のヒメネス等でも、それが文学史や20世紀の枠組みの中でどう考えられ、どう位置づけられているのか、というのが、スペイン文学者の視点で記述してくれているのがありがたい。
私自身の文学観、あるいは中欧から見た視点と著しく違う点もあり、諸手を挙げて歓迎、とまではいかないが、そういったあたりはこの本の個性の範疇だろう。価値を減ずるものではまったくない。