火星の月の下で

日記がわり。

Kafkaの『Vor dem Gesetz』

近くの書店にNHK語学講座「アンコール・ドイツ語講座・応用編」というのが来てたので、なにげなく買って帰る。
語学講座は、金・土の応用編だけたまに聞いてたりしてたんだけど、続き物になってると、どうも一度とばすとそれっきりになったりして、あんまり真剣に聞かなくなってもう数十年・・・一応、音を忘れないように、とたまに聞くこともあったけど、衛星放送が普通に聴ける環境になってからは、それもなくなってしまった。
したがって、このアンコール応用編を買って帰ったのも、ほんとに偶然というか、気まぐれである。
しばらくほったらかしにしてたのだが、今日開いてみると、なんか懐かしいテキストが載っていたので、それについて少し。
フランツ・カフカ『掟の前で』(Vor dem Gesetz F. Kafka)
ページ数にして、2ページほど。なんかむちゃくちゃ懐かしくて、ここだけ一気に読んだ。
ドイツ語を独学し始めて数年経った中学の頃、それまでロマン派とか表現主義ばっかり読んでたのが、たまに毛色の変わったのも読んでみよう、でも長編とか劇はロマン派だけでいいから、となんかよくわからない理屈で、20世紀の短編集をいくつか読んでいた。Fischer文庫だったかInsel文庫だったか、ちょっともう憶えていないが、その中にあったのがこの1本。私にとって、初めて読んだカフカだった。
短い話である。
「掟」の前に門番がいる。そこへ田舎からある男がやってくる。「入れてくれ」と頼むが「今はだめだ」と断られる。「掟」の門番は、「自分を倒しても、さらにおくにはもっと強い門番がいる」ともいう。男は待ち続ける。何年も何年も待ち続ける。やがて男は衰え、死期が近いことを悟る。臨終の息で門番を呼び寄せ「なぜ入れないのだ」と問う。門番は「この門はお前のためだけのものだ、オレはもう行く、そしてこの門をしめる」というところで唐突に物語が終る。
これを読んだとき、なにか脳髄に抜けるような衝撃を受けた。「掟」とは何か?「門番」とはなにか?
しかもこれ、全編が現在時制で書かれていて、一種異様な語り口になっている。
文章は、単文が多く、たたみかけるように状況だけが端的に語られて、短いこともあって、一気に読める。そして読後に残る奇妙な感覚。
いったいこの作家は何者だ?・・・と思い、いろいろ読み出すことになり、その後『父の憂鬱』とか『歌姫ヨゼフィーヌ』とか『断食芸人』『変身』といろいろ読んでいくきっかけになった作品で、この作に出会ってなければ、私のカフカ体験はもう少し遅れたかも知れなかった。
今、何十年かぶりでこの作品を読み直してみると、昔感じた以上に短い印象がある。
物語が描写されると言うより、たんに粗筋が淡々と書かれているだけ、そんな印象だ。
頭の中に、COM時代の岡田史子のこととかが、ぼんやりとよみがえってきたりもした。
非常に懐かしい、しかも刺激的な読書体験だった。
その他にも、ボルヒェルトが載ってたり、語学テキストのくせにけっこう面白く、読み込んでしまった。
フランス語とかも出ていたようだけど、ロシア語は見なかった。出てないのかな?
今年から語学講座は20分から15分に短縮されてしまい、残念なんだが、まぁ、私自身ももう聞いてないし(時間帯的にきつい、というのもある)仕方ないか、とは思うが、こういうテキストはありがたいものであるな、と思ったわけだ。
もっとも、たぶん聞かないとは思うけど。(笑)