火星の月の下で

日記がわり。

少年劇団と女性人物

シェイクスピア研究に欠かせない文献として「ヘンズロウ日誌」というのがある。(Diaryなのだが通例「日誌」と訳される)
1592年から1603年までの劇団員の賃金等、金銭関係の記録をかなり詳細に残してくれていて、それによりシェイクスピアの真作・贋作はもとより、当時の人気なども透けて見えてくる一級品の資料である。
その中に少年劇団員のことがいくつか乗っていて、当時の商業演劇では、少年役や老人役はもとより、女性役もたいてい彼ら少年俳優が担当した。
シェイクスピア劇が上演されていた時代、つまりエリザベス朝時代というのは、女性が舞台に上がることが禁じられていたためで、総じて観客も大半が男性だった。
シェイクスピアの劇において女性の登場人物が少なく、またいたとしても全幕でずっぱりというのはほとんど数えるほどしかない。それはこの辺の事情も反映しているのだろう。
ただシェイクスピアの偉大だった点は、そういうマイナス要因になりかねないものでも喜劇の材料としていた点で、その喜劇やロマンス劇には女性が小姓に化けて男性と思われる、という場面がいくつかある。
小姓ではないが有名なところとしては『ベニスの商人』のポーシャなどもそれにあたるだろう。
今日我々が劇を見るとき、女性役は女性がやる、それがあたりまえのように感じているが、当時は少年が女性役をやり、その女性役が劇中で「少年」になるのである。この面白さは、当時の制約をむしろ逆に利用したものだったのだろう、なんてことを秋の夜長にぼんやりと思ったものでありました。