火星の月の下で

日記がわり。

◎黒澤の『野良犬』を見る

大昔、といってもリアルタイムではもちろんないのだが、リバイバルかなんかで見た時にはまだこどもだったこともあって、あんまり深くは覚えてなかった、黒澤の『野良犬』(1949)。
DVDを買ってきて視聴してみたんだが、戦後まだ4年の東京のロケがすごすぎて、よく言われる「主人公はある意味で、東京」ってのがかなり納得できる。
昭和30年代(1955〜1964)のこども向けヒーロー番組でも、屋外の撮影を見ると、まだ道路が舗装されてなかったり、平屋があったり、という東京都心部の風景が映りこんでいたりするが、この映画ではそれをもっと意図的に入れているという点で目をひく。
闇市のところに関しては大半がセット撮影らしいけど、かなり忠実に再現しているらしいこと、闇市部分ではない箇所はごく普通にロケでやってること、当時の職業野球がナマで映っていること、などから、時代感覚が強烈に浮き上がってくる。
映画作品であると同時に一級の時代資料である、というのもよくわかる。
その野球の場面。
昭和24年の巨人南海戦というと、あの別所昭移籍問題でいろいろと禍根を残したシーズンで、巨人が三原監督の下、戦後初優勝。
そして同時に1リーグ時代最後の年で、翌年から2リーグに分裂するので、シーズン中に両球団が試合をすることはなくなってしまったが、日本シリーズで何度も火花を散らす相手。
三原の方でも、巨人球団が復員してきた水原を実質監督に据えたことで巨人を飛び出し、西鉄監督として水原巨人と対決する、というのはあまりにも有名だが、ここではまだ巨人監督。
選手の中では背番号16の川上、同3の千葉茂(長島の前の3番)がやけに目立つが、南海側の投手、アンダーハンドの武末も確認できる。
その他、三船の眼光がギラギラ輝く場面とか、土砂降りの中、志村喬が撃たれる電話室とか、最後の大原駅とか、野原とか、映像の魅力を存分に魅せてくれる。
なお、Amazonのレビューで「モーツァルトソナチネ」と書いている人がいるが、あれは「クーラウのソナチネ」である。ピアノ学習者なら絶対に間違えない名前なんだけどね。(笑)
配役に関しては、後の黄門様、東野英治郎がチョイ役で出てくるのだが、その個性の強さ。
いろいろと見所の多い映画でございました。