火星の月の下で

日記がわり。

『蛮族の侵入』再読

文庫クセジュの『クローヴィス』(グラール著)を買ってきてポツポツ寝床で読んでいたのだが「そういやクセジュの『蛮族の侵入』も確か昔買ったはずだな」と思いだして書棚を探してみたら書庫にしまうでもなく書棚の奥の方にあったので、取り出してきて再読。
ピエール・リセ著、クセジュ番号567.1974年の初版だけど所有していたのは1982年の第4刷。
たしか購入した当時は「割と普通のことしか書いてないな」と思った記憶があった。
再読してみてもその印象はそんなに変わらなかったけど、ふだん読み慣れているドイツ系の学者ではなく、フランス側の学者によるものなので表現がいろいろ変わってくるな、といったあたりが目につく。
言うまでもなく、文庫サイズで「民族大移動時代」を記載したものとしては、現在でもたぶん第一級の良書だと思う。
「民族大移動」が「蛮族の侵入」という用語になっている書名をはじめ、単語の選択に、ローマ世界の内側にいたという意識のあるフランス系の学者らししさが随所に出ているが、記載され、説明されている事柄は驚くほど中立かつ公正で、学術用語を除くとどこの国の人が書いたのか、ということはほとんど気にならない。
ただあまりに中立客観的であるがゆえに、ここ20年くらいで扱いが大きくなていきつつあるクリスト教の問題点があまりにサラッとしすぎているのが物足りない、と感じるくらいである。
38頁にある、ゲピード、ヴァンダル、アラマン、ランゴバルトへと広がっていったアリウス派が、おそらくゴート族から伝わっていった、という下りなんか、もう少し詳細に書いてほしかったくらいである。もちろんウルフィラスのゴート語訳聖書についての言及はあるのだけど。
時代範囲としては、西紀前一世紀頃からフランクのメロヴィング朝を経てランゴバルトのイタリア征服くらいまでなので、当然クローヴィスの改宗などには紙幅がさかれてはいるのだが。
民族大移動によってラテン・ローマ古典とクリスト教、そしてゲルマン精神が融合して中世が始まるこの時代に、なんらかの材をもって考えるとき、この書籍は基本ベースになってくるだろう。