火星の月の下で

日記がわり。

『ちーちゃんはちょっと足りない』を読む

阿部共実さんの『ちーちゃんはちょっと足りない』を遅ればせながら購読。
チャンピオンで連載していた『空が灰色だから』がすごく良かったので気にはなっていたのだが、本作は掲載誌が家の近くの書店においてなかったことから気づくのにかなり遅れてしまい、昨年春くらいにコミックスが出たときにも気づかず、ずるずると今日になってしまった。
なんか「すごい」の大賞をとってから購読したような感じがしてちょっとイヤだったんだけど『空が灰色だから』の作者の作品を読まずにいるのはもっとイヤだったので、遅れまくったけど、購読。
結論、やはり買って読んでよかった。すごく良い。
Wikiでも後半に起こった事件のことは伏せているので、それについては具体的に書かず、抽象的になるが感想だけ残しておく。
『灰色』でも思ったことだけど、社会的に痛い感覚というのをわかりやすく、かつストレスなくお話として進めて行ってくれる技量にはかなり感心させられる。
技量と書いたけど、どちらかというと技術というよりセンスで処理されているような感覚があって、ともかく本来なら痛くてページを繰るのが苦痛になりかねない題材をさらっと、しかも独特の深みを持って描いてくれている、という点で特筆すべきものがある。
そういった特性から、短編で威力を発揮する人だ、と思っていたけど、今回、ひとつながりの話で描かれているちーちゃんとその友だち達の物語を見ていると、長編(本作は中編どまりだけど)でもかなり読ませてくれる人かな、と思った次第。
技術的には、心が袋小路のような闇の中に落ちていくところの白黒のコントラスト、あるいは冷たい目の描写、なんかが当人にとっての重さ、深淵なんかを浮かび上がらせてくれてすばらしい。
マンガやアニメにおける「絵の技術」というと、やたら情報量を詰め込んだ「よりリアルでありたい」と叫んでいるような絵が「技術力がある」「絵がうまい」と言われる傾向があるようだが、マンガは美術作品じゃないんだから、情報量の多寡で決まるものじゃない。
どれだけそこに心理が反映されているか、ということの方がはるかに大事、というのをあらためて実感させてくれる絵の迫力、魅力がある。
ナツの心の中で渦巻く自己嫌悪と絶望感が、それに対応するかのような旭の是を是として非を非として謝る潔さ、あるい藤岡が見かけとは全然違う人間としての懐の深さがあったということなんかと、ものすごい対照になってて、その両者の間で、その心や行動をひきだす起爆スイッチみたいになっているちーちゃんの痛々しい行動が特にひきつけられるところかな。
後半の事件を書いてしまうとネタバレに近くなるので書かないけど、こういうった対照性の中ででも浮かび上がってくる個性を少ないページ数で描ききっているのも見事。
ちょっと絵のクセが強いので、そこらへんで読む人を選ぶかもしれないが、私には『灰色』同様すごく気に入った作品となった。
まだ読んでない作品もいくつかあるみたいなので、今後その作品をおいかけていきたい一人でありますな。