火星の月の下で

日記がわり。

ハチワンダイバーとしおんの王

関西では最大で2話も遅れてしまうアニメ『しおんの王』だが、意外と言ってはなんだが、けっこうまじめに対局シーンがでてくる。
話の方は、ある殺人事件に巻き込まれて言葉を失った少女が主人公だったり、男が化けて女流棋士やってたりと、けっこうキワモノっぽいネタはあるんだが、対局と盤面はかなりのリアリティがある。
原作者が違う筆名を使ってはいるが、物議をかもした元女流棋士だ、というのもかなり関係しているんだろう。
原作者・林葉直子さんについては、リンク先のWikiの記事に概略が載っているが、デヴューしてしばらくの頃の、天才少女っぷりについては、あまり書かれていない。
アニメブログの方でさんざん書いたので2度手間になるからもう書かないけど、才能のすごさ、という点では、当時突出していたと思う。
ただ、例の一連の事件で将棋連盟とはほとんどケンカ別れのような状況になってしまっている。中原事件のとき、テレビのニュースや、将棋世界誌上で、林葉をかなりあしざまに言っている棋士がいた。少なくとも現在の連盟側の印象としては、そうとう悪いものをもっているだろうと思う。
さて、このアニメが放映される少し前、したがって放映はまだでも、制作は進んでいた状況の頃、近代将棋*1誌上で漫画作品『ハチワンダイバー』の作者、柴田ヨクサル氏のインタヴューが載っていた。
この時点ではまだアニメの方の『しおんの王』を見ていなかったものの、アニメ化の話自体は知っていたので、ちょっとはずしてるかなぁ、という印象があった。
過去の確執さえなければ、アニメ化展開する作品の方をプッシュしていったほうが、将棋の裾野という点でも意味が大きい、と感じたからだ。
将棋界は、最近ようやく普及ということについて、真剣に考える雰囲気がでてきているように思う。少子化の波は確実に将棋界にも現れてきているし、今までの経済的基盤だった新聞棋戦のモデルが崩れるかもしれない予兆が見えはじめているからだ。
囲碁界に一大センセーションを巻き起こしたといっていい『ヒカルの碁』。漫画作品やアニメ作品で、ああいうブームを起こせるものが出てほしい、というのは、かなり他力願望的ではあったけど、将棋連盟の方にもあったと思う。
はっきりとは言明してなかったが、それを思わせるニュアンスは、『ヒカルの碁』全盛期にチラホラ聞こえてきたからだ。
ヒカルの碁』全盛期の頃から、次は将棋だ、とでもいった思惑が雑誌側にもあったのかどうか、いくつか将棋マンガは始まったようだったけど、あまり成功したようには見えなかった。
そして登場したのが、この『しおんの王』と少し遅れて出てきた『ハチワンダイバー』だったのだが・・。
両作品を見れば、プロ棋士や将棋界の内実にはよく通じていて、物語としてはどちらも面白い。傾向としてはかなり違うが。
柴田ヨクサル氏も漫画家ではあるが、上の近代将棋のインタヴューによれば、幼少期将棋少年で、奨励会を志した時期もあったというから、単に取材で取り上げました、という、それまでの『ヒカ碁』便乗将棋マンガとはかなり違ってたことだろう。
かつてケンカ別れした原作者の将棋マンガと、将棋少年だったという原作者の将棋マンガ・・・連盟としてはどちらに好意を抱くか、容易に見当がつくところだし、アニメもまだ始まってなかったので、感覚としてちょっとはずしてるかな、という程度だった。
ところがアニメが始まってみると、はずしているな、というどころではない、というのが正直な感想。
こういってはたいへん失礼だけど、意外と対局部分はマトモだったのだ。
さて、そうなると、将棋を扱った作品としてどちらが啓蒙効果として有効か、ということになる。
しおんの王』に関しては、上に書いたように素材としてかなり変なのが混ざっていることは事実である。しかし、それを是としては描写していない。
一方『ハチワン』の方は、堂々と頭から「真剣師」という職業が出てくる。問題性としては、実はこっちの方がはるかに大きい。
連盟は、プロ棋界がまともな競技世界であることを示すために、真剣の追放を長年にわたってやってきたのではなかったのか。
断っておくが、物語の面白さとしては別である。そういった裏の世界が素材としてたいへん魅力的であることは否定しない。
また、絶対といっていいほどありえない女性の真剣師(個人的には、男性の偽装女流以上にありえないと思う)をもってきたことにより、でだしの面白さはかなり効果的だったと思う。
だが、連盟がこういう取り上げ方をしている作品の方に肩入れしていいのか、と言う気はかなりする。よしんば、のちのち真剣に対して批判的になっていくとしても、である。
そして、決定的だと感じたのは、絵柄の差。
どちらも現代的と言うには程遠い画風であるが、まだ『しおんの王』の方が現代的であるし、なによりもアニメ版の方ではかなり萌えの要素が追加されている。
最近の本編では、どうも外注が続くせいか、ちょっと作画に停滞感が漂ってきているが、OPの鬼気迫る神園とか、絶対領域の紫音とか、はんぱなく可愛い安岡夫人とか、濃い萌えをバラまいてくれている。その沼田デザインの効果もあって、基本ラインとしてのグレードの高さはそこそこ伺える。翻って『ハチワン』はどうか。
ハチワン』は明らかに劇画の絵で、萌え要素とは対極にある。
絵柄の魅力というのは主観に負うところがかなり大きいので、一般論化はしにくいけど、子供や女性が魅力を感じる絵ではないだろう。
つまり、将棋普及の助けになるような画風とはとてもいえないのだ。
連盟が真剣に普及云々を考えるのなら、過去のいきさつは水に流して、トラブルを起こした元女流棋士としてではなく、マンガ原作者としてのかとりまさるをこそプッシュすべきだったんじゃないか、と思う。
こんなことを考えてしまったのも、連盟の公式サイトを見ていると、また『ハチワン』原作者を取り上げて、渡辺竜王との対談とか、再現ドラマとかをやっているのである。
ハチワン』も面白い作品ではあるけど、あれでは少年層や女性層にはアピールしにくい、っていうことに気づいてほしいところだ。
きわめて主観だけど、囲碁界と将棋界、棋士の魅力という点では、断然将棋界だと思っている。
囲碁に比べて若いときにピークが来るので、トップ棋士の年齢が若くなることに一因があるし、なにより囲碁の世界を覗くと、見たくもない朝鮮人がウヨウヨしてる。
トップに中年と、朝鮮人しかいない囲碁棋士より、トップに若手棋士でも魅力的なのが多い将棋棋士の方が女性をひきつけやすい要素をもっていると思うのに、やってることといえば、おっさんをひきつけることしかしていない、そんな感じなのだ。
連盟ももう少しオトナになってほしい。。。

*1:正確には、『近代将棋』は『将棋世界』と違い、連盟の機関雑誌ではない。だが、連盟の意向は間違いなく反映しているので、一応連盟側として書いていく。