火星の月の下で

日記がわり。

ロータース『E.T.A.ホフマンの世界』

ロータース『E.T.A.ホフマンの世界』読了。
今まで数多く読んできた内外のホフマン論、ホフマン伝記とはいくぶん違った切り口で、けっこう面白かった。
ドイツの文芸評論によくある、同時代の社会性、今日から見た社会意識との差、みたいなことにさほどこだわりがなく(なかったわけではないのだが)作品性そのものの中に切り込んでいくスタイルで、ドイツの文芸評論はだんだん国際水準に近付いてきているのかな、という印象。
もっとも著者エーバーハルト・ロータースの略歴や執筆史を見て見ると、美術史家、芸術論家、と言った分野の人なので、そういう方面からのアプローチだと、終生正自分が音楽家だと言う意識をもっていたホフマンにはぴったりの論者だったのかも知れない。
実際、前半部分はホフマンの作曲、演奏などについてかなり突っ込んだ指摘、描写があるし、従来のあくまで小説家メインに対して付け足し程度で終始していた彼の作曲や美術、評論について、この書籍では成立状況や内容についても触れているので、作家論としては小冊子の部類だろうけど、けっこう充実した印象が持てた。

周辺作家の解釈、たとえば幼馴染で4つ年長のツァハリアス・ヴェルナーについてけっこう辛辣な書き方があったり、ノヴァーリスとの関係に踏み込んでいたりと、かなり大胆なところもあって、ある程度独文学史に通じているとにやにやできる面白さもある。

ただ残念なことに、誤植というか、校正ミスみたいなところがチラチラあって、そのあたりで若干興を削がれた。
まぁ、いたるところにあったとかっていうレベルではないのだけど、内容がワタクシのフィーリングや考え方ともけっこう一致していただけに、いささか残念に感じてしまったところ。
たぶんこれは原著者や訳者のせいではないはずだか。