火星の月の下で

日記がわり。

青少年に薦める夏の課題図書

腹こわして家でふせってたので、どうもネタもないため、思いつきでこんなものを書いてみる。
夏休みも近いので、若い人に読んでほしい文豪作品、でもちょっと変、みたいなのをズラズラ書いてみる。
といっても、カビの生えた青春小説や、古臭い恋愛小説なんかをあげても仕方が無いので、一応自分縛りとして、いくつかの条件をつけておく。
まず、文豪の作品であること、そして名前はそこそこ知られているのに、意外とちゃんと読んだ人が少ない作品であること、そして翻訳がでていること。
何を持って文豪というか、というのも定義しづらいけど、高校生くらいだったら、別に文学部志望とかでなくても、名前くらいは知っててもおかしくなかろう、というもの。
しかしこの条件を逸脱しているものもあるかも知れないし、個人が選ぶので、偏りがあるのは勘弁してもらいたい。
1.ドン・キホーテセルバンテス
名前と、風車につっこむ場面があまりに有名なので、そこだけは知ってる人が多いと思うが、ちゃんと全編、前・後2巻を読んだ人は少ないと思う。
本作は、壮大な騎士小説批判の書で、現実と物語の区別ができなくなった人がどうなるか、というのを風車以外でもいろんな説話で語られている。
本作、ドン・キホーテではなく、サンチョ・パンサの言を追いかけていくのが面白いと思う。
2. リア王シェイクスピア
これもリア王と3人の娘の場面があまりに有名で、父娘の愛情の話だと勘違いしている人がいるが、本作のポイントは、リア王の娘・コーデリアではなく、対照的なエドガーとエドワードの描写にある。
この2人の筋が挟まれたことで、リア王の苦悩は人類普遍の苦悩となり、あの有名な荒野のモノローグになるのである。
3. ヘンリー6世第1部(シェイクスピア
沙翁の処女作であるが、現在では「聖女」になってしまったジャンヌ・ダルクが、淫乱の魔少女として、英国軍を惑わし、タルボット将軍と戦うエピソードが面白く、時代によって歴史人物の価値が変わる、というのを教えてくれる。
作品中では「乙女(ラ・プーセル)」として描かれている。
4. 若きウェルテルの悩み(ゲーテ
失恋して自殺した若者の小説・・・というのが世間のイメージだが、本書の価値は、失恋の第1部ではなく、社会に受け入れられない青年の苦悩を描く第2部にあり、決して甘っちょろい失恋物語ではないのだ。
末尾の自殺のシーンにしても、即死ではなく、死ぬまでの時間が淡々と描かれている。
5. ファウスト悲劇第2部(ゲーテ
これも、ファウスト物語として有名なグレートヒェンとの恋、むく犬メフィストーフェレス、といった悲劇第1部の方があまりに有名で、この社会改革やらヘレナの召還やらの悲劇第2部は、専門家以外にはほとんど読まれていないような気がする。
ファウスト』の本領はこの悲劇第2部にあるのだ。
6. ヴィルヘルム・テル(シラー)
スイス独立の英雄・ウィリアム・テルの物語、というと、子供の頭にリンゴを乗せて打ち抜く話、みたいに思ってる人がいるが、たしかにその場面があることはあるのだが、本作は群集劇で、決してテルの英雄劇ではない。
独立のために立ち上がるスイスの郷士たちの思惑やら団結やらがテーマで、むしろテルの存在は浮いているようにさえ見える。
7. R.U.R(チャペック)
『ロボット』というタイトルの方が有名かもしれない。
だがここで語られる奴隷人間ロボットは、メカニカルなロボットではなく、フランケンシュタインの怪物のような、有機体である。
そしてその人造生命が、社会反抗をなす劇で、アシモフの散文『われ、ロボット』などとは根本的に違う。
チャペックのSFは、散文の『絶対子工場』『クラカチト』などのように、けっこう冷たい描写が多いのだが、本劇はまだ熱のある描写がけっこうある。
8. ファウスト博士(T.マン)
マンの小説は長編なら『魔の山』と『ブッデンブローク家の人々』、短編なら『ヴェニスに死す』などの方が有名だが、わたしは断然本作が一番好きなので、かなり主観だが、こに名を連ねておく。
天才音楽家アドリアン・レーベルキューンをその友人の哲学者ゼレヌス・ツァイトブロームが描く物語で、どこにも悪魔は出てこない。
しかし確実に悪魔はいるのである。高校生くらいにはちと難解かも知れないが、近代幻想文学の最高傑作の一作でもあるので、必読。
9. 白鯨(メルヴィル
映画なんぞより断然原作の方がおもろい。
メルヴィルは、あまり知られていないが、南洋小説、海洋小説の名手でもあったので、海の描写なんかは秀逸である。
そして、聖書故事に基づく匿名の人たちの追跡行、そして最後の決戦。すばらしいの一語である。
10. ガラスの動物園テネシー・ウィリアムズ
ライ麦畑のキャッチャー』を読んだ人は、ぜひウィリアムズも読んでほしい。劇作品だから、本当は芝居として鑑賞してほしいけど。
小説なら、セオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』でもよい。20世紀アメリカ文学最高峰の2作である。
こんなとこかな。文学作品、として選んでみたので、いささか趣向が異なるものもあるけど、十代の頃に読んで感銘を受けたり、猛烈に反感を感じたり、とにかくいろいろと影響を受けた基本書籍と言ってもいい。
そのうち、幻想文学でもこういう基本書籍、というのをやってみたいんだが、幻想文学だと翻訳されてないのばっかりになってしまいそうなんだよなぁ、それがちょっと問題かな。