火星の月の下で

日記がわり。

「将棋の日」を見て

開始時間をうっかりしてて、最初の辺を少し見てなかったのだが、NHKで「将棋の日」を見る。今年は兵庫県加古川市
加古川というと、久保棋王、神吉六段の出身地で、芦屋市出身の井上八段も住んでいる、ということで、次の一手名人戦では、司会・神吉、解説井上(谷川九段とともに)、対局・久保(相手は羽生)、というのが見られた。
いろいろ見所というか、面白いところがあったんだけど、解説に立っていた谷川九段から、けっこうショッキングなことばがもれていた。
「最近は光速の寄せはなくなってしまって、ゆっくりと長い将棋が好きになってしまって」「歳なんで」といったことばは、ここ数年の棋譜を見てうすうす感じてはいたけど、当の本人の口からでてくると、ショックでありますな。
谷川九段が史上初、中2でプロ4段になり*1二十歳で最年少名人になった頃の「光速の寄せ」、将棋の革命に近かった終盤戦術の登場を、リアルタイムで見ていた身としては、妙にさびしいものを感じてしまったわけなのだ。
現代将棋を語る上で、何度か今日の姿になる「革命的できごと」があった。
天野宗歩の飛先の歩、木村十四世の「木村美濃」、升田の序盤戦術・・・、その中にあって、谷川の終盤戦術の登場は、個人的には天野の飛先の歩に匹敵する、将棋の革命だったんじゃないか、とさえ思っていたからで、後続のチャイルドブランド、羽生、故・村山、森内、佐藤(康)・・・といった面々の戦術も、すべてこの谷川戦術の延長上に花開いた、とさえ思っていたのだ。
それゆえ、ショッキングなことばに聞こえてしまったのだが、木村、大山、中原、といった大名人なんかも、40代前後から、中盤を意識するさし回しになってきたし、これはむしろ、谷川九段の成熟である、と信じたい。
もっとも、歴代名人の中には、塚田正夫実力制二代目名人のように、晩年になってますます終盤が鋭くなっていったような人もいるが、今とは終盤戦術の感覚が違っていたので、だいたいはこう言ってもいいだろう。
それにしても面白い番組だった。
阿部、山崎の女流解説のときに言っていた「荒々しい矢内女王」なんてのも、以前にNHK杯・解説で、山崎・矢内のかけあいを覚えている者としては、すこぶる面白かったし、次の一手名人戦で、井上八段が弟子である稲葉4段に「気の利いたこと言えよ」なんていっていたのとか、神吉が久保棋王と対局した羽生に「空気を読まずに勝ってしまった」なんていってたのとか、とにかく、久しぶりに面白い「将棋の日」だったと思う。
次の一手名人になった、初老の男性が、対局立会い役だった有吉九段を見て、「30年前に指導していただいた有吉先生の前で、こういう賞をいただけるのはすごく嬉しい」と言っていたのとかも、印象に残る良い場面だった。

*1:最年少4段は加藤一二三だが、誕生月の関係で、中学2年でプロ4段になったのは、谷川だけ。つまり、中学生で順位戦に参加したのも、今に至るも谷川ただ一人である。中学生でプロ4段になった残りの3人、加藤一二三羽生善治渡辺明は、いずれも、中3でのプロ4段昇段。