火星の月の下で

日記がわり。

◎名作『樽』はたしかに上級者向け

【クロフツ】「樽」の移動は複雑すぎ。流し読みだと、ほぼ最初は理解不能 
ぶく速さんとこに本格推理小説史上不朽の名作・クロフツの『樽』が取り上げられていた。
今のプロットの奇抜さで引きつけるミステリ、あるいは謎の解明を懇切丁寧に、あるいはたっぷりギミックをきかせて叙述そのものを楽しませるミステリに慣れた目だと、『樽』はとんでもない上級者向けに映るだろう。
『樽』にはプロットの奇抜さはなくて、丹念に丹念に鉄道をからめた不在証明の綻びを見つけていくスタイルなので、派手な殺人があって、派手なトリックがあって、意外な犯人がいて、みたいなお子様ランチ的な全て用意されている内容ではない。
しかしそれを読み解いたとき、この作品が「Golden Twenties」の扉をなぜ開いた名作か、というのがわかってくると思う。
ワタクシも若かりし頃、メモをとりながらうんうん唸りつつその足跡を追い、考えたもので、老境に入った今となってはもうあんな情熱でメモを取りながらなんてとても読めないけど、それでもとんでもなく高度な仕掛けを読み解けるようになったあの瞬間は今でもはっきりと覚えている。
肝心の筋道の本体は忘れてしまったが。(笑)
逆に言うと、クロフツのアリバイ崩しが面白い、と感じられるようになったら、本格推理小説ファンとして一人前ではないか、とさえ思う。
まぁもちろん実際はミステリも多様化しているし、好みの問題もあるから、あれにひかれないからといって本格読者失格だなんて思わないけれど、読み解けたときの感銘はそう感じてしまうくらいに深かった覚えがある。
クロフツは作を重ねるに従って、わかりやすく、また視角的になっていったけど、この最初の頃の『樽』や『最大の事件』なんかの頃はそうとうに晦渋だった。
ちなみにここで第2作『ポンスン事件』の名前も挙がっているが、ワタクシが創元文庫で読んでいた頃は『樽』の次が第5作『フレンチ警部最大の事件』で、名作の誉れ高いと噂になっていた第2作『ポンスン事件』と第4作『フローテ公園』がまだ出てなくて、首を長くしてまっていたものであった。
そんなことを思い出してしまう『樽』のまとめ記事でございました。