火星の月の下で

日記がわり。

中世英文学史を読む

厨川文夫氏の『中世英文学史』『英語音韻史』を書架から引っ張り出してきて読書中。
これはたぶん一般に売られていたものではなく、大学のテキストだったもののようだが、すこぶる面白い。
中世英文学史において、ノルマンコンクエストの影響がいかに強烈だったか、というのが今更のように思い知らされる。
実例はそれほど引用されているわけではないが、便覧的に見ていっても、他の中世初期ゲルマン諸国の武勲詩、物語、韻文と共通項のあるOE時代、そしてそれからガラッと風景が変わる「Merry England」の12世紀以降の対比が鮮やかに描かれている。
それから400年後、沙翁の陽気な喜劇なんかの根っこはここにあるんだな、と思わせてくれるし、同時に初期悲劇の凄惨さは、OE時代の香りがまだいくぶん残っていたことをも連想させてれて、なかなか面白い。
ただまぁ、どうしても大陸側からの視点になることが多いので、OE時代の方が心に響くのではあるが。
心に響く詩、というのは、甘い恋に喜んだり悲しんりするよりも、世界苦の中に諦念とともに暗い嵐の海を見つめる方が性に合っている。これは個人的な好みなのだろうけど。