中世前期アングロサクソン文学(一)〜古英語の時代
古高ドイツ文学をいろいろいじっていて、アングロサクソン文学について触れていないのも片手落ちなので、英文学、英語学は専門ではないんだけど、少しばかり覚え書き。
まず、時代設定。
古英語の時代というのは、通常ローマ軍が400年頃にブリテン島を引き上げたのち移住してきた西ゲルマンの3民族、アングル、ザクセン、ジュート(ユート)が定着し、ヘプターキーを構成する時期から、ヘイスティングスの戦いで敗退してノルマン征服が始まる1066年までの時期。
もちろんことばの歴史はある1年をもって劇的に変化するのではなく、だいたいの目安、というのはお約束の前提。
・3つの西ゲルマン族と七王国。
だいたい400年頃にローマ帝国がブリテン島を放棄。
ローマ人侵入以前のブリテン島は主にケルト系のブリテン人が住んでいたようだが、本稿の目的ではないので、無人の島ではなかった、という程度に留めておく。
ローマが撤退したあと、主としてユトランド半島及び、その根もとである今日のシュレスヴィヒ、ホルシュタイン地方にかけて存在していた3つの西ゲルマン民族がブリテン島に移住してきて、原住民たるブリトン人たちをウェールズ、コーンウォール、スコットランドに追いやってそれぞれに王国を作る。
まず北側、アングル人による3つの王国、ノーサンブリア(北アングリア)、マーシア、イーサンブリア(東アングリア)が形成。
テムズ川河口東岸からザクセン人の3つの王国、即ち東からエセックス(東ザクセン)、サセックス(南ザクセン)、ウェセックス(西ザクセン)が形成。
そしてジュート人による最南端のケント、という七つの王国が形成される。
だいたい450年頃にこの七王国(ヘプターキー)の基礎が固められ、7世紀頃までにまずノーサンブリアが優勢に、ついで8世紀頃までにマーシアが優勢になる。
イングランドとはアングル人の土地、という意味で、この頃のアングル人の王国が優勢だったことによるものだったのだろう。
ちなみにヨークが当時のノーサンブリアの司教座にして首都。
・ウェセックス王エグバート。
マーシアが優勢になったあと、コーンウォールのブリトン人も支配下に入り、その一部が大陸に逃れてブルターニュ(ブリトン人の土地)となる。
793年にリンデスファーン修道院がノルマン人の襲撃にあい、この時からブリテン島にヴァイキングの襲撃が始まる。
802年にウェセックスの王となったエグバートが他国を制圧してアングロサクソン諸国の宗主権を獲得、またデーン人に代わっていたヴァイキングもいったん撃退する。
839年にエグバートが死んだのち、再びヴァイキングの活動が活発になり、ノーサングリア、マーシアの東半分を領域におさめる。
このとき占領下の都市が5つあったので、五城砦都市地方、とも言う。リンカン、ノッティンガム、ダービー、スタンフォード、レスターの5都市。
この五城砦都市地方がデーン・ロー地域となる。
一方、ウェセックス王国の首都はウィンチェスターとなる。
・アルフレッド大王。(871-899、900とも)
ウェセックス王アルフレッドは、878年にエディングトンの戦いにデーン人を破ったあと、885年にロンドンを占領。
古アングロサクソン文学にとってはこのアルフレッド大王の統治時代というのがすこぶる重要で、ラテン語著書を当時のウェセックス語に数多く翻訳したため、当時の古英語(OE)の文献が数多く残ることとなった。
一般にOE時代の文学は、このアルフレッド大王時代を境として、アルフレッド以前と以後とに分かれる。これについては後日取り上げる予定。
・エドワード(899-924)、エセルスタン(924-939)からエドガー王(959-979)へ。
937年、エセルスタンがブルナンブルの戦いでアイルランド方面から侵入してきたデーン人を破り、さらにスコット人、ウェーズ人連合軍も撃破。
この頃からデーン人・クヌートによる支配まで、ヴァイキングとの飽くなき抗争。
文化的には大陸との交流が進み、大陸の文化文物も多数入ってくる。
エドガーは全イングランドの王として戴冠し、イングランドにおける教会改革も始まる。
・クヌート大王の北海帝国。(1016-1035)
デーン人の王クヌートによる一時的な北海の制圧がなされるが、イングランドとしては1013年エセルレッド王が敗れ、クヌートの支配下に入る。
・エドワード懺悔王からノルマン征服まで。(1042-1066)
クヌートの死後も1042年までその子孫がイングランドを支配していたが、1042年、エセルレッドの子エドワードがノルマン人の力を利用して独立を達成するも、エセックス伯ゴドウィンとの対立により内紛。
1066年に死んだのち、その子ハラルドが立つも、ノルマンディ公ウィリアムにヘイスティングスの戦いで敗れ、以後長いノルマン征服の時代を迎える。
だいたいOE時代、その文学作品としてはこの間のできごと。
この時代背景の中で、Beowulfなどの古アングロサクソン文学が花開くわけだけど、さすがに疲れたので以下は明日以降。