火星の月の下で

日記がわり。

研究社版『Rappaccini's Daughter』

強毒少女ものの傑作、ホーソーン『ラパチーニの娘』は本邦でも何種類かの邦訳が出ているが、私の持っているのは次の3冊だけ。
怪奇小説傑作集3(東京創元社1969)
・研究社小英文叢書245(1976)
・毒薬ミステリ傑作選(東京創元社1977)
ただし、怪奇3と毒薬ミステリは同じ訳者による同一のもの。
「毒薬ミステリ傑作選」は読みたい作品が他にあって、購入したらたまたま入っていた。
今回は研究社版で再読。

対訳はついていないものの、Noteが事実上の対訳か、というくらいに細かな注になっていたので、たぶん高校卒業程度(あるいはもっと下でも)普通に読めるかな、という感じ。
もっともNoteはほとんど必要なく、普通に邦訳を読んでいるような感覚で読める。
イングランド語っていうとふだんは沙翁やマーロウ、リリーといったエリザベス朝演劇を中心に読んでいるので、ホーソーンくらい現代に近いとたいへん読みやすい…といっても19世紀作品だが。
感想としては、若いころ読んだ邦訳とさして大差ないのだけど、今読んでも普通に面白い。
ただ筋を知っているってこともあって、原文をあたるとジョバンニとベアトリーチェよりも、下宿のリザベッタ老女(邦訳では「婆」が連発して出てくる)とか、ラパチーニのライバル・バリオーニの描写の方にいろいろとひかれてしまうところもあったかな。

美しい少女が強い毒そのもので、その姿、心に惹かれる若者に悲劇が待っている、というのは、近世中近東の冒険譚あたりからチラチラ見える素材ではあるけど、本作はそこに有毒飼育による衰弱の要素をあまり入れず、その毒香が青年の方に伝播していく、というプロットを追加してうまい具合にまとめている。
吐息が毒となり死と背中合わせであるという恐怖よりも、なにか得体のしれない霧に閉ざされたむこうの世界を覗き見ているような、またベアトリーチェも「少女の姿をした何か」のように感じられるところもある。
よくできた短編だと思う。
もっともわしらの世代だと『伊賀影』の村雨兄弟を連想してしまうのではあるが。